私たち人間の元をたどれば、両親、祖父母、曽祖父母………と祖先の家系をさかのぼって、
やがては進化の長大な流れに行き着くように、学問にも、長い発展の歴史があります。
現在の遺伝子工学による先進技術の成果をみる前に、まずは古典的な遺伝学から書き始めてみましょう。
私たちが知ることのできる遺伝に関する学説といえるもののうち、最も古いものは、
「医学の祖」といわれる古代ギリシアの医者ヒポクラテスがとなえたものだとされています。
ヒポクラテスの考えでは、父親の身体の各部分が、遺伝を支配するある物をつくりだし、それが精液の中にまとめられて生まれてくる子供の形質を決定するというものでした。
その説を批判したのは「自然科学の祖」といわれるアリストテレスです。
アリストテレスは黒人と白人の混血児を調査して隔世遺伝を指摘し、
また体の一部を失った父親の子供が同じように人体を欠損して生まれてくるわけでないことなどから、
ヒポクラテスの説を批判しました。アリストテレスは、子供に遺伝されるものが、親の形質そのもではなく、
形質を成す能力であると考え主張したのです。
ただし、アリストテレスは進化については否定しました。
後代に長く影響を及ぼした彼の「目的論的世界観」とよばれる思想では、種は固定的なものと考えられ、
種が変化するという概念は受け入られませんでした。アリストテレスの同窓の学者には「種の変化」つまり「進化」を唱えた人物もいたようですが、
大学者アリストテレスの強大な影響の前に薄れ、種の変化は異端とされ続けました。
アリストテレスの生物学は、絶対の権威として彼の死後2000年以上生き続け、そ
のため遺伝に関する研究はその間ほとんど全く新しい成果に達することがありませんでした。
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